この記事でわかること

  • BtoBデジタルマーケティングの全体像を「地図」として整理する方法(認知から商談化まで)
  • 全部を同時に始めてはいけない理由と、着手順序の決め方
  • 最初の一手を「入口の獲得設計」に置くと効きやすい理由
  • エンプラ向けITで特に必要になる、DMUと長期検討への配慮

「デジタルマーケティングに一通り取り組んでいるのに、成果が読めない」。マーケティング部門の立ち上げや作り直しを担う立場になると、こうした悩みが出てきます。原因の多くは、施策が個別に走っていて、全体の設計図がないことです。この記事では、BtoBデジタルマーケティングの全体像を地図として描きます。どこから着手するかの判断軸までを、IT企業のマーケティング責任者に向けて整理します。

全体設計の地図|獲得・育成・選別・商談

全体設計の第一歩は、施策を並べる前に、リードがたどる道のりを地図にすることです。BtoBのデジタルマーケティングは、大きく5つのステージに分けて整理できます。

ステージ役割主な施策の例
認知知ってもらい、検討が始まったときに思い出してもらうSNSアカウント運用・動画コンテンツ
獲得見込み客との接点をつくり、リードにするSNS広告・ウェビナー・オウンドメディア
育成検討を前に進め、関心を高めるメール・お役立ち資料・セミナー
選別営業が追うべき状態のリードを見極める行動スコア・基準づくり
商談化営業へ引き渡し、案件にするインサイドセールス・商談

大切なのは、この5つが別々の役割を持ち、順番につながっているという点です。獲得だけを増やしても、育成と選別がなければ営業に渡すリードは整いません。逆に、育成の仕組みだけ作っても、入口が細ければ流れ込む母数が足りないのです。

認知と獲得は同じ物差しで測らない

認知を地図に置く理由は、獲得と同じ物差しで測らないためです。見られた回数と、連絡先を残してもらえた数は、別のことを表しています。ここを一つの指標にまとめると、表示が伸びた月に「うまくいっている」と読み、商談が増えないまま予算を積む判断になりかねません。認知の指標は想起や指名検索の伸び、獲得の指標はリードの数と質、と分けて置きます。

認知は効き始めるまでに時間がかかる一方、いちど積み上がると獲得の効率を底上げします。指名で思い出してもらえる状態になれば、同じ広告費でも反応が変わるためです。ただし立ち上げ期に認知から始めると、成果が見えるまで持ちこたえられないことが多くあります。この記事で入口の獲得設計を最初の一手に置くのは、そのためです。

だからこそ、施策単位ではなく、地図全体を見て「どこが弱いか」を判断する視点が必要です。BtoBは検討期間が長く、意思決定に複数の人が関わります。一つの施策の良し悪しだけでは、全体の成果は決まりません。

動画はステージではなく形式

地図に載せるときに迷いやすいのが動画です。動画はステージではなく形式にあたり、どのステージでも使えます。たとえばウェビナーの録画です。オンデマンド配信に回せば獲得の入口になり、短く切り出してSNSに載せれば認知の接点になります。商談前の相手に個別に渡せば、育成にも効く素材です。作り直すのではなく、置き場所を変えるという発想になります。

そのため動画は「何本作るか」ではなく「一つの素材をどこで何回使うか」で設計します。撮影と編集の手間は1本あたりでは重いものの、3つのステージで使えるなら実質の負担は下がるのです。逆に、ステージごとに別々の動画を作ろうとすると、本数だけが増えて続きません。

なお、地図の下流にある選別と商談化にも、設計上の判断軸があります。選別で決めるのは「どの状態になったリードを営業に渡すか」という境目です。商談化で決めるのは「渡したあと、どこまでをマーケが追い、どこから営業が持つか」という分担です。本記事では入口を重心に置くため、選別と商談化の詳細は今後の個別記事で扱います。地図の上では、この2つも空白にしないでおきます。

5つのステージに分ける発想が効くのは、施策を単体で評価する誤りを避けやすくなるからです。「SNS広告のクリック単価が下がった」だけを評価しても、それが商談化まで届いているかは別問題です。地図で捉えると、上流の獲得は好調でも下流の育成や選別で詰まっているケースが見えてきます。反対に、獲得数は横ばいでも育成の質が上がって商談化率が伸びる形もあります。数字は必ず地図上のどこの数字かを紐づけて見る発想が実務的です。この習慣がつくと、次の一手が判断しやすくなります。

BtoBデジタルマーケティングの5ステージの地図と、形式として横断する動画

どこから着手するか|ボトルネックを起点に決める

全体像が描けたら、次は着手順序です。ここで多くの現場がつまずきます。地図の全ステージを同時に立ち上げようとして、どれも中途半端になるのです。

着手順序は、「今、どこが最大のボトルネックか」から決めます。当社が支援する中でも、詰まっている場所は大きく3つに分かれます。

  • 入口が細い:そもそも獲得できるリードが少なく、母数が足りない
  • 育成が抜けている:獲得はできているのに、その後放置されて温まらない
  • 連携が切れている:マーケから営業へ渡す基準がなく、商談につながらない

このうち、御社ではどれが主因かを見極めます。見極め方はシンプルです。リードの数が足りないのか、数はあるのに商談に進まないのか、まず量と質のどちらの問題かを分けます。数が足りなければ入口、数はあるのに進まなければ育成か連携が疑わしい、という順で当たりをつけます。

詰まりを見極めるとき、感覚ではなく数字で判断できると迷いが減るのです。入口の詰まりは、月次のリード獲得数と、目的とする商談数から逆算した必要リード数のギャップで見えます。育成の詰まりは、獲得後に「反応がなくなる時点」を追うと見つけやすくなります。連携の詰まりは、マーケが渡したリードのうち、営業が「商談化する見込みなし」と返却する割合が指標です。数字を軸に整理すると、3つのどこが最大かの合意も取りやすくなります。

着手を決めたら、次に大切なのは営業や関係部署との合意形成です。マーケ単体で判断しても、営業側が「そこは本当のボトルネックではない」と感じている状態では、下流の改善が進みません。「なぜここから着手するか」を、量と質のデータで示して合意を作る一手間が、後の改善速度を大きく変えます。特に連携の詰まりを直す場合、営業側と共同で作業する必要があるため、初期の合意なしで進めるとほぼ確実に停滞します。

複数が同時に詰まっていることもありますが、いちばん上流の詰まりから直すのが原則です。入口が細い状態で育成の仕組みだけ磨いても、流れ込む母数が増えないため成果は限られます。上流から順に整えると、そこを通過する母数自体が増えるため、下流の詰まりも相対的に緩みやすくなります。

BtoBマーケティングのボトルネックを量と質から切り分ける判断フロー

最初の一手は「入口の獲得設計」|なぜ効きやすいか

ボトルネックが入口にある場合はもちろん、どこから手をつけるか迷う場合も、入口の獲得設計から始めると効果が見えやすくなります。母数が増えれば、後続のステージを改善する際の検証もしやすくなるからです。

入口の獲得設計は、3つの要素をそろえることに尽きます。

要素決めることずれるとどうなるか
ターゲット誰に届けるか(会社規模・職種)狙いと違う層が集まり、商談につながらない
オファー何を渡すか(資料・診断・相談)検討段階に合わず、確度の低いリードが増える
チャネルどこで接点を持つか(広告・ウェビナー等)届けたい相手に届かない

当社はSNS広告運用とウェビナーで、この入口を実際に運用しています。その運用で繰り返し見えてきた勘所が、オファーの「出し分け」です。

入口のオファーを一つに絞ると、母数か確度のどちらかを落とします。たとえば「無料相談」だけを入口に置くと、まだ課題が固まっていない情報収集層は反応しにくく、今すぐ客に偏ることが起こりえます。逆に入門資料だけにすると、今すぐ相談したい層を取りこぼしかねません。そこで、同じターゲットへ検討段階の違うオファー(資料・診断・相談)を並べ、相手の段階に合うものを選べるようにします。これが入口で質と量を両立させる勘所です。

一方で、チャネルだけを広げてしまう失敗もよくあります。接点の数は増えても、オファーが検討段階に合っていなければ、集まるのは確度の低いリードばかりです。入口の設計は、チャネルを増やす前に、ターゲットとオファーをそろえるほうが先になります。

入口の設計を組み終えたら、走らせる前に一度、質と量の両方で「この設計は目的に合っているか」を確認します。目的が「今すぐ客の獲得」なら量は少なくても質を優先する形が合いますし、「認知の広さから育成に流し込む」なら量を優先する形が合うのです。目的とオファーの噛み合わせを見ないまま走らせると、成果は出ても事業には効かない結果に着地します。この確認は5分でできるチェックで、後の運用の質を大きく変えるのです。

入口のオファーを1つに絞った場合の弊害と、出し分けの設計

▶ SNS広告で狙いに合ったリードを獲る設計は、以下の記事で解説しています。

🔗 BtoB SNS広告の失敗パターンと対策

▶ ウェビナーを入口にしてリードを獲得し続ける設計は、以下の記事で解説しています。

🔗 オンデマンドウェビナーの活用設計

エンプラ向けITならではの配慮|DMUと長期検討

エンプラ向けITの全体設計では、もう一つ織り込むべき要素があります。意思決定に関わる人が多く、検討期間が長いという特性です。

一つの製品の導入に、情報システム部門・利用する事業部門・経営層など、立場の違う複数の人が関わります。この関係者のまとまりをDMU(意思決定関与者)と呼びます。全体設計を描くときは、担当者一人だけを想定してはいけません。立場ごとに響く情報を地図のどこで当てるか、あらかじめ決めておきます。

  • 現場・情シスには、運用のしやすさや既存環境との相性
  • 事業部門には、業務がどう変わるかや導入の手間
  • 経営層には、投資対効果や導入実績

これらを一枚のコンテンツで満たすのは困難です。たとえば獲得の段階では現場の関心に合う入口を用意し、育成の段階で経営層向けの判断材料を渡します。こうした情報の出し分けを、地図の中で設計します。

設計で見落としやすいのが、立場と入口オファーのかみ合わせです。現場の関心に寄せた入口だけを用意すると、情報収集中の担当者は反応しても、決裁に関わる層の背中を押す材料が地図上にないままになりがちです。そこで全体設計では、導入実績や投資対効果といった経営層向けの判断材料を、どの段でどのオファーとして届けるかまで決めておきます。地図の下流で誰に何を届けるかは、入口の設計とつながっているのです。

検討期間の長さも設計に効いてきます。今すぐ商談にならないリードを早く営業へ渡せば、営業は「話が進まない」と感じるでしょう。長い検討を前提に、獲得後すぐ渡すのではなく、育成で温めてから引き渡す流れを地図に組み込みます。

DMUの立場ごとに地図のどのステージでどんな情報を当てるかの配置図

各ステージの深掘りは地図から辿る

全体設計の役割は、どこに何があるかの地図を持ち、着手順序を判断できるようにすることです。各ステージの具体的な進め方は、地図から辿って個別に深めていきます。

  • 受け皿となるオウンドメディアの立ち上げは、以下の記事で解説しています。

🔗 BtoBオウンドメディアの立ち上げ手順

  • 獲得したリードを育てるナーチャリングの進め方は、以下の記事で解説しています。

🔗 BtoBのリードナーチャリング

  • 何を成果の指標に置くかの考え方は、以下の記事で解説しています。

🔗 BtoB SNSマーケティングのKPI設定

  • 検索結果のAIによる要約や生成AIの回答で自社がどう扱われるかは、以下の記事で解説しています。

🔗 BtoB企業のAIO対策ガイド

地図があると、施策を追加するときにも「これは地図のどこを強くする施策か」を判断できます。個別の流行りに振り回されず、全体の中で位置づけて取捨選択できるようになります。

まとめ|地図を描き、入口から着手する

BtoBデジタルマーケティングの全体設計とは、施策を並べることではありません。リードがたどる道のりを地図にして、着手する順序を決めることです。

  • 地図を描く:認知・獲得・育成・選別・商談の5ステージで全体像を整理する。動画はステージではなく形式で、使い回して設計する
  • 順序を決める:入口が細い・育成が抜ける・連携が切れる、のどこが主因かを見極める
  • 入口から着手する:迷う場合は、効果が見えやすい入口の獲得設計から始める

次のアクション

  1. 自社の施策を5ステージの地図に並べ、どこが手薄かを書き出す
  2. 量(リード数)と質(商談化)のどちらが弱いかを分け、ボトルネックを特定する
  3. ボトルネックが入口にある、または迷う場合は、入口の獲得設計から着手する

BtoBデジタルマーケティングの全体設計を進めたい方へ

当社フラグアウトでは、BtoB企業のデジタルマーケティングを、全体設計の相談から支援しています。全体設計の中でも、最初の一手になりやすい獲得の入口を、ターゲット・オファー・チャネルの設計からお手伝いするのが強みです。次のようなお悩みをお持ちの方に向いています。

  • 「施策が個別に走っていて、全体の設計図がない」
  • 「どこから着手すればよいか、優先順位が決められない」
  • 「入口のリード獲得を、狙う相手に合わせて設計し直したい」
  • 「エンプラ向けの長い検討を前提に、獲得の入口を設計したい」

まず現状の施策を地図に並べ、詰まっている場所に合わせた入口の設計をご提案します。

🔗 BtoBマーケティングの全体設計について相談する

BtoBデジタルマーケティングの全体設計におけるよくある質問

Q
全体設計は、何から始めればよいですか?
Q
全部のステージを同時に立ち上げてはいけませんか?
Q
どこから着手するか迷うときは、どうすればよいですか?
Q
エンプラ向けITで、特に気をつける点は何ですか?
Q
施策の流行りには、どう向き合えばよいですか?
Q
全体設計は一度作れば終わりですか?